賢者ゴロウの試練
第1話 美少女ゆずぽんとの出会い
その美少女と出会ったのは、旅の途中の出来事だった。
忘れもしない、17歳のサルバート高原での話だ。
その時の僕は、学園から長期休暇をもらって、実家に帰る途中だった。
僕の名は、スギ=モッサリーノ。
僕の故郷の名前は少し特殊。正確には、姓が「スギ」で、名が「モッサリーノ」と読む。
アリアステの街からさらに西の辺境の街オバハマを治める貴族。
6人兄弟の末っ子で、継承権の末席にいる立場だった。
流石に、いつまでも、親の七光で生きていけないから、手に職つける意味でも、日頃はトルリラの魔術学校で、召喚士の資格を勉強している。
成績は、中の上。素質は十分だと言われながらも、一体の召喚にも成功していない。まあ、同級生も似たりよったりで、あまり心配してはいないのだが。
そんな僕は、その時、父からの急な招聘で、地元オバハマへと急いでいるところだった。
サルバート高原を抜けたところに、シルベスタスの街がある。
そこで、船に乗り換えて、一気にアリアステを目指そうと考えていた、、、時だった。
高原の灌木のひとつに腰掛けている人影を見つけた。
人間の姿をしている。
左腕の肩口から、蒼い血が流れていた。
この子は、人間を模した亜人だ。
「大丈夫かい?・・・え?」
僕が驚いたのは、その女の子が服を着ていなかったからだ。
季節は春。合物くらいは用意していたから、荷物から上着を出して、肩から着せる。
少女の方に慌てた様子は一切なかった。
目のやり場を確保してから、背負い袋から、簡易の救急セットを取り出す。
聖水で、傷を洗ってから、傷口を刺激しないように、乾いた清潔な布で覆う。
傷の処置は、すぐに終わった。
美少女と今、僕は説明したけど、この子の本当の年齢はわからない。
小柄な体つきと、その表情の愛らしさから、そう判断しただけだ。
「僕の名前は、モッサリーノ。 君の名は?」
「ユズ」
ぼそりと、少女がこぼす。名前?それとも、別の国の言葉なのか。
「じゃあ、ゆずぽん、と呼んでもいいのかな?」
少女は、コクリとうなづいた。
第2話 精霊界・ムギの界の10人
しばらくして、疑問は解けた。ユズというのは、仮の名前らしい。
少女はすぐに打ち解けて、なんでも話せる仲になった。
気軽な話が得意な僕としては、その1ヶ月という時間は十分だった。
少女の服と路銀は、僕が用意した。
でも、この子の正体は相変わらず、闇の中だ。
シルベスタスの街で神託を受けた。
「この者には、神獣の気配が感じられる。"半妖の聖地"のマークーシーを目指すがいい」
神官が告げたのに、僕は納得した。
幸い、僕の故郷オバハマは、マークーシーに近い。何もかもがラッキーだ。
「モッサリーノ。お腹すいた」
神殿から、帰る途中、ユズが、目をキラキラと光らせながら、僕にすがりついた。
「お店に行くかい?」
「チクワが食べたい」
あー。この子はどうして、こうなのかな?
一応、貴族の僕は、身分を隠しての旅とはいえ、十分な路銀は持っている。
なんというか、もっとしっかりしたものを食べて欲しい。
見れば、、、失礼かもしれないが、痩せすぎだと思う。
もう少し、肉付きがいい方が僕の好みだ。
「ゆずぽん、それならば、海鮮の美味しい店を目指そう」
「うみゅ。うまい」
ゆずぽんが頼んだのは、海鮮丼。
他にも、コースとか、会席とか、百歩譲って定食とか、選択肢はあったと思うんだ。
僕らは、まぁ、ほどほどのお店に入って、ほどほどの宿屋に泊まることにした。
部屋は同じ部屋。
年頃の少年少女には、目の毒だと思う。
まぁ、僕の強靭な精神力によって、間違いは犯さなかった。
チキンハートというなかれ、そこは十分、間に合っている。
「海鮮丼っていえば、南方に海を渡って、コトゥまでいけば、海の幸はもっと美味しいものがあるんじゃないかな?」
「コトゥ?! 行ってみたい」
「そうかぁ」
今回の旅には、予定の入っていない地だ。
もし、ゆずぽんとまた、一緒に旅に行くのなら、行ってみようかと思った。
「そろそろ、話してもいいだろう?ゆずぽん。君は、なんで、高原で怪我をしていたの?」
「そうだのぉ。話した方がいいじゃろうか」
ゆずぽんが、スプーンを口から離して、僕を見る。「実は、主を探しておる」
「?」
「わしは、人間ではない。召喚獣じゃ」
まぁ、あの蒼い血から判断するにそうだろうとは思ったよ。
契約する主を探しているのか。
「契約した人はいるの?」
「今世ではまだじゃな。だから、それに相応しい主人がいてくれるとうれしいのじゃが」
ちらりと僕を見るゆずぽん。
それが僕を主人として見定めている目であることくらい、僕にはわかる。
「僕はまだ、修行中の身なんだ」
僕は、少し残念そうに答えてみせる。
召喚の際に削る魂の重みを知っている僕は、簡単に首を縦にふれない。
実際、僕の実家スギ家には、姉が2人召喚士になり、ともに早世した過去がある。
「チキンハート」
「ゆずぽん、それ、レディが一番いっちゃいけない言葉だよ」
そこは意味合いが変わってくるからね。
まるで、女性に行動力がないように映るのは、やめてほしい。
一応、学園でも女性受けはいい方なんだ。
その証拠に、靴箱に、恋文の入らない日はない。
・・・思い出したら、頭が痛くなってきた。
ちなみに学園では、僕は召喚士としての素質は十分すぎるほど、認められている。
生命力も普通の人以上だとも。
ただ、召喚獣と契約する度胸だけが、、、問題なんだよなぁ。
「もう一度、言ってやる。チキンハート。男らしく、我を使役してみせろ」
うーん。
かわいいゆずぽんには、悪いんだけど、、、。
「そのままだと、将来、独身貴族で、人生が終わるぞ?」
かちん。
言うな。それは。いくら、僕が貴族だとしても。
「・・・ならやってやるよ。ゆずぽん。僕と契約しろ」
「・・・ぽっ」顔を赤らめる彼女。
あ、やっぱり言ってて恥ずかしい。というか、そこで、顔をほてらせないの、ゆずぽん。
世の男性は、こんな感じで妻にプロポーズしているんだろうか?
「我との契約には、『ムギの界の10人』とすべて契約する必要がある」
へ?
「10人の召喚獣をすべて使役できた時、我はお前の召喚獣になってやる」
聞いてないよ。10人なんて。あっと言う間に、僕の生命力が尽きてしまう。
「撤回してもいいかな?」
「ご自由に」
ゆずぽんは、これが言いたかっただけらしい。
つまり、このゆずぽん。
小規模とはいえ、「精霊王」だったわけだ。
第3話 領地に帰ってみると・・・
精霊王。
つまり、いくつかある精霊の系統でも、複数の精霊を使役する精霊のリーダー。
一体の精霊王を契約する力を持つものは、同時に多彩な下僕の精霊をも自由に使役することができる。
なんという召喚獣と僕は旅をしているのだろう。
しかも、ゆずぽんの求愛は、猛烈だった。
うーん。
青春期がこんなんだと、将来、僕は女性に対する恐怖感を持つと思うんだ。
シルベスタスの港から、一気にアリアステ、それから船を乗り継いで、オバハマへ進み、実家についた後で、陸路ガイスレン街道を使えば、聖地マークーシーはすぐそこだ。
少し暇をもらって、ゆずぽんを"半妖の策士"に届ければ、僕とこの召喚獣の旅は、終了となる。
・・・と思っていた。
「これは、モッサリーノ! 精霊王と契約したのか?」
父が大喜びした。
それが、僕とゆずぽんをみた時の、父の一言。
ちなみに父の職業分類は魔術師になる。いやね、父が博学だったりすると、こんなことも簡単に見抜かれてしまうわけで。だから、大魔導士フルタクを父親に持つというルピアさんも、多分、最初の精霊王と契約した時、こんなんだったんだろうなぁ、と同情してしまう。
閑話休題。
それはともかく、スギ家は、どんちゃん騒ぎになった。
「僕、契約してないんだけど」
「じゃぁ、なぜ、この娘は、お前についてきた?」
ゆずぽんが僕をチラリとみて、ぽっと顔を赤らめた。
その反応はやめて、ゆずぽん。誤解を産むから。
「おぉ。モッサリーノ。お前、精霊を魅了したのか?!」
僕の人生、独身貴族でいいと思います。
もちろん、それが、ゆずぽんの悪戯であることは、1ヶ月旅してきた僕にはよくわかる。
彼女は、精霊王だと言ったが、その中でも、位の高い精霊王だった。
ムギの界の10人って、今、転生しているのは全部で4体。
その召喚士の中では、教科書に載ってもおかしくないクラスのものばかり。
炎をあつかう「はるぽん」、癒しを司る「ゆうさま」、幻影獣「かえりん」そして、時空を司る「おにぎりちゃん」。他の存在は、今は、先の精霊女王の消滅時に、眠りについていたはず。
つまり、それってとんでもないですよ。
契約なんかしたら、僕の生命力が簡単に枯渇してしまうくらい、容易に推測できますからね。
お父さん、わかってます?
「うむ」
父が、一本指を立てた。「尽きない生命力を得ればいい」
父が提案した名案は代々、我が家の召喚士が受ける「賢者ゴロウの試練」だった。
「すまないね。ゆずぽん。家の事情につきあわせてしまって」
「いや、こっちの方が数段、面白い」
ニヤニヤ顔のゆずぽん。
本当に、面白がっているのが、よくわかる。
だって、自分の旅の目的、完全に忘れてますからね、この召喚獣。
「『賢者ゴロウの葡萄』を知っているか?」と父は言った。
「あ、もしかして。領地で作られている原種の葡萄ですね」
「そう。この地に、賢者が1000年前植えたと言われる葡萄の原木だ」
僕に、その葡萄の木を探せ、と。
「・・・で、それからどうするんです?」
「なるほど」
と、ゆずぽんが続けた。「モッサリーノに、その葡萄の実を食べさせる気じゃな?」
賢者ゴロウは、かつて、命のつきかけていた、この地の王をもてなすために、その葡萄から作った葡萄酒を振る舞ったのだそうで。
実際、それで、王をはじめ、多くの人が、息を吹き返し、国は再興したという。
その王が、今は、マクシリアの領主となり、今、この地にオバハマを作った。
というのが、我が領地に知られている御伽噺。
「その賢者が、我が地にひとつの伝承を残した。無限の生命力がほしければ、我を探せ、と」
あー。わかりました。でも。
「1000年前って、大抵の人生きてませんよね」
「だから、探す意味があるのだろう? 行け!」
へ?今、父上、今なんと?
「ゴロウを探せって?どうやって?」
「それを知ることも、使命のうちだよ。モッサリーノ」
第4話 賢者ゴロウの試練
「無茶振りですね」
「そうじゃの。無茶振りじゃの」
父親の無茶振りと、それ以上の、1000年前の賢者の無茶振りの二つで、僕らは領内を探しまわることになった。
まずは、ゆずぽんを聖地に届けてから、と思っていたんだけど、なぜか、それは却下された。
なんでも、ゆずぽんを我が家の召喚獣に、と父が力説したからだ。
ゆずぽんもまんざらではない様子。
ただ、そこに召喚士である僕の許可がない。
「チキンハート」
と、再び、ゆずぽんがつぶやくが、その程度の挑発に落ちる、もろいメンタルを僕が持っているわけではない。
「一生『独身貴族』でいいのか?」
あ、またコイツ、キラーワードを。
はっきり言っておく。僕は、きちんと人間と正常な恋愛関係を築きたいと思うんだ。
「うーみゅ」
ほら、ゆずぽん。ちくわをあげるから、そこはへそを曲げないでよ。
「・・・これで引き下がると思うなよ」
と、美味しそうに、ちくわを香辛料にディップして食べるゆずぽん。当初、素のままのチクワが好きなゆずぽんだったけど、最近は、いろいろアレンジを加え始めたようだ。
無事、一週間後、城内で賢者ゴロウが残した洞窟に関する古文書が見つかった。
とある洞窟に、光に満ちた地があって、そこに植っているのが、伝説の原木なんだとか。
「いざ、ゆかん! 将来の主よ!」
「いざ、ゆこう! ただし、主になるかどうかは、それからだ!」
洞窟は、領内のとあるダンジョンだった。
幸い、盗掘の気配はない。
つまり、情報の信憑性は期待できる。
洞窟の散策キットを荷物に入れ、カンテラを持ちながら、ダンジョンに向かう。
剣を構えて、ダンジョンを行く僕とゆずぽん。
他の家臣には、一緒に来ることは諦めてもらった。
理由は、僕個人の問題だから。および、ゆずぽん自身の。
化け物はいなかった。
不思議な空気に満ちた、、、聖域だった。
周囲はクリスタルで光が乱反射して輝く、不思議な空間。
果たして、中央に蔓を張った葡萄の木が見える。
その葡萄の木の下に、一人のミドルエイジな男性がいた。
ダンディな感じ。笑顔が標準装備してあるが、普通はない知性がそこに満ちている。
多分、賢者ゴロウ本人だ。
「この地に来たと言うことは、選ばれた者だということですね?」
1000歳を超える賢者が僕らを見る。
「試練を与えましょう」
とたんに周囲に、4人の騎士が現れた。
そうか。
賢者ゴロウは、すでに冥王マーノの手に委ねられた偉人だ。
生前は、三大魔術師を育て、行方不明になったといわれている。
つまり、この人は、今、ここには存在していない。
今現れた4人の騎士は、いわゆる試練の仕掛け。
賢者ゴロウの魂の護衛たちなのだろう。
この場合、この騎士たちはリビングアーマー。つまり、生きている鎧たち。
・・・言うまでもなく、普通17歳の学生がどうこうできる相手ではない。
選択肢は2つ。
逃げるか、すなわち倒すか。
「どっちも無理」
思わず、言葉を漏らす僕。
ゆずぽんが、興味深そうに僕を見る。「契約してくれれば、助けないこともないが?」
「ことわる」
強情をはる僕。
こうなると、事態の解決というより、自分の信念になりつつある。
そりゃあ、なぁ。実際、僕は召喚士を目指しているわけだし、利益がないわけではない。
でも、命は大事なわけで。
リビングアーマーの攻撃を剣で受け止める僕。
残るは3体。周囲を囲み、僕らを見つめている。
間合いを図っている?・・・いや、僕らを見定めている様子が近い。
ゆずぽんが動いた。
「命の葡萄よ、主に力を貸せ!」そう言った時、何かが僕の影から、飛び出した。
葡萄から影へ魔力が注ぎ込まれる。
あれ? いつかまにか、何かがが僕の影に宿っていた?!
現れたのは、4つの影。いずれも4つの虎の成獣だった。
1つ目の影。炎獣はるぽん。
2つ目の影。癒しのゆうさま。
3つ目の影。幻のかえりん。
4つ目の影。時空のおにぎりちゃん。
「今、主人に力を貸そう!」
ゆずぽんが、吠えた瞬間。
一気に成獣たちが襲いかかった。
ふぁいやーが放たれ、リビングアーマーの術式が解かれ、音楽の幻聴があたりを支配し、時間が止まった。
「4成獣における『炎上パーティー』が始まったようじゃな」
ゆずぽんがにやりと、笑ってみせた。
第5話 自慢のワイン
「そもそも、モッサリーノ。お前は勘違いしておる」
領地の屋敷に戻った時、ゆずぽんが語った。
「召喚士は、術者の生命力を糧に召喚獣を使役するのではない」
少女がかかえたカゴいっぱいに、ゴロウの原木がつけた葡萄をかかえて、洞窟を出た。
「本当の召喚魔法は、『主に惚れた』召喚獣が力を貸してくれるだけなのじゃよ」
つまり?
「わしらは、お前さんが気に入った。これからも、お前さんが呼べば、いつでも力を貸そう」
はるぽん、ゆうさま、かえりん、おにぎりちゃん。そして、ゆずぽんが僕を見る。
領内はお祝いになった。
今回、なぜ、僕が呼ばれたのか。
実は、家督を僕が継ぐことを知らせるためだったのだ。
実質は、執政官の姉が力を貸してくれることになっていた。
「モッサリーノが持ち帰ったこの葡萄。白ワインにして、売り出しましょう」
姉が、助言してくれる。
「生命力を注ぐ葡萄酒として、世間に広がることでしょう」
そのお祝いの最中に、来客があった。
一人の長身の巨体を持った魔法剣士。
半妖の策士コバヤーだった。
「この祝宴にお祝い申し上げる」
コバヤーがうやうやしく、僕の目の前に立つ。
「そろそろ、神獣を迎えに来た方がいいかと思ってな」
周囲が静かになった。
僕は、意図がわからなかった。
「『白虎』、そこにいるのだろう?」
コバヤーが指さしたのは、ゆずぽんだった。
「ゲートに異常が来している。そろそろ、帰ってきてくれ」
ゆずぽんの動きが止まった。
「この者に興味があるのもわかるが、本来の仕事を忘れないでくれ。戻ろう。聖地へ」
僕は思わず、振り返る。
その時の表情を今でも忘れることができない。
ゆずぽんの目は潤んでいた。でも、決して僕に気付かれないように、弱々しい笑顔で強がっていた。精一杯の声を振り絞って、涙がこぼれないように言葉を紡ぐ。
「すまん。主よ。しばらく、我はこの地を離れる。
すべて終わったら、必ずここに帰ってくるから、妻の座は開けておいてくれ」
コバヤーは、ゆずぽんとともに、この地を去った。
領主になっても、埋められない孤独が、僕を襲ったのだった。
エピローグ
「モッサリーノは、それからどうなったの?」
ユフラス殿下が、私に笑顔を見せてみせます。
「無事、学園を卒業して、アーサー王の側近になったんですよ。半分は、領主を勤めながらね」
「今、ゆずぽんに会えなくて寂しい?」
興味深そうな顔に、私も笑顔を返します。「24年前ですからね。青春の思い出として、懐かしい感じですね。今も私が独身貴族なのは、彼女を超える女性に巡り合ったことがないだけです」
「でも、それって、スギ家にはよくないことなんじゃ・・・?」
「姉の子が、スギ家の跡を継ぐことになってますから、大丈夫ですよ。それに、私は、今でもゆずぽんのことを愛しています」
嘘ではありません。
私は知っています。
彼女がそれから、辛い決断をして、自分が守っていたゲートを破壊したことも。
だから、再び、私は、ゆずぽんに惚れられるような男でありたい。すべてがうまくいったら、必ず、迎えに行くんだって今でも決めています。
将来、ユフラス殿下は、優れた召喚術を使えるようにもなるでしょう。
その時、忘れないでいてほしいんです。
どんな職業でも、みんなに好かれる存在であってほしいと。
どうか、将来、がうちょのマスターになっても、王様になって国民を守る存在になっても、ユフラス殿下は、ユフラス殿下のままであってください。
私が、そこまで言った時、殿下はすやすやと寝息を立てていたところでした。
願い届く、その時まで、ゆっくり休んでくださいね。
<スギ=モッサリーノの受難 完>