第1話
私の名は、山口はるか。
就労支援事業所で、職業支援員をしている。
とある問題を抱えている。
今回は、プライベートの話。
私の実家は、古くからの名家。
、、、だと言うことが、最近わかった。
「いい人はいないのか?」
「ばあちゃん、しつこい」
大家族で困るのは、こんな時。
最近は、仕事のシフトの関係で、祖父母と同じ時間の夕食になることはなかったのだが。
今まさに、仕事が面白くなってきたところだ。
歳もさんじゅ、、、いや、年頃になると、そろそろ、いろんな問題につきあたる。
家督問題がそのいちばん最たるところ。
現時点で結婚願望は、全くない。
そりゃあ、素敵な彼氏がいたら、人生の彩りは変わるのだろうけど。
あまり、公にしていないが、私は精神疾患の経験者である。発達障害とその二次障害を患っているのだけど、今、働きながら、それほどその事は気にしていない。まあ、大学卒業後は、それなりの苦労はしたものだが。
先日、大学の先輩でもある竹中さんに講演会の依頼をしたところ、意外な切り口で、鮮やかに問題を解決されたのを見た。
彼は四肢が動かない人なのだが、全然、障害を感じさせない。
仕事ができるできないは、障害とは全く関係ないと、その時確信した。
やっぱり、私の恋人は仕事だ、と思う。
さて、話を本題に戻そう。
私は今、家を飛び出して、大村公園に来ている。父母は、私の結婚については、広い視野を持っていて、私を焦らせたりはしないのだが、祖父母は、そうはいかない。
で、近くの大村公園に逃げてきた。
公園に敷設した観光案内所で、コーヒーといなほ焼きを買って、ベンチに座る。
その時、信じられないものを見た。
空から舞い降りる神獣の姿を。
神獣はあろうことか、巨大なガチョウの姿をしていた。
その背に乗るのは、14歳ほどの少年。
この先、かなりのイケメンに育つだろう。
「見てたんですか?」
少年は笛から口を離した。
ひいていたのは「アヒルのワルツ」だったけど。
「ええまあ、見てたわよ」
としか、答えられない私。
「誰にも言わないでくださいね」
少年が、笑顔を向ける。
声は、変声期を乗り越えた年頃のテノール。
美しい、と思った。
、、、あ、誤解しないで欲しい。
立派な成人女性として、未成年の少年に手を出すほど、倫理観が狂っているわけではない。
ただ、その登場が、あまりに神々しかったので、素直に気持ちを口に出しただけだ。
彼が演奏をやめると、神獣は、そのまま、空気に溶けていった。
「、、、今のは?」
「異世界とこっちの世界を渡れる神獣です。名前は『がうちょ』だったかな。確か『出会いの成獣』の異名があっとという」
素敵すぎる。特に神獣なんて。
美少年と神獣。これほど、腐女子予備軍としては、美味しいオカズはない。
「わかった。秘密にしておいてあげる。そのかわり、また、会えないかしら?」
美少年は、困った顔を少しした後で、
「いいですよ。この公園には演奏の練習に、よく来ているので。、、、約束ですよ?」
それが、私と彼とがうちょとの出会いだった。
第2話
それから、私の公園通いが始まった。
家には、ウォーキングする、と言う名目で、外出している。
まさか、家族に言えるものか。
不思議な笛を吹く美少年と密会してます、なんて。
彼の名前は、風野久雄くん。
愛称は、フゥと呼んで欲しいと言われた。
フゥ君は、高名な音楽家の家に育ったと話した。
なるほど、それで、フルートを。
彼が曲を奏でると、不思議な現象が起きる。
そよ風が集まったり、霧雨が降り出したり、心が癒されたり。
まるで、天使だ。と、私は思う。
でも、選曲の最後で、彼が必ず奏でる「アヒルのワルツ」が、私は一番大好きだ。
なんといっても、神獣が召喚されるのだから。
少年以上に、美しいがうちょ様の姿。
私は瞬く間に、彼らのファンになってしまっていた。
「いざど言うときのために、異世界に行けるようにしておきたいんですよ」
フゥ君、えらい。
「ありがとう、いつも素敵な演奏を」
私も筋トレに戻ろうとした時、ふとフゥ君が、呼び止めた。
「お姉さん。結婚するって、どんな気持ちなんですか?」
あら、意外な言葉。でも、私は結婚してないのよ。
「実は、俺、親友の妹と結婚する運命らしいんです」
まあ。
「結ばれるのは、素敵なことだと思うけど。現実は、もっと厳しいわね。めんどくさいというというか」
「ですよね。俺が思うのは、燃えるような恋の後の結婚なら、理屈はわかるんです。いきなり、婚姻って、なんでしょう。理不尽しか思えませんよ」
あら、フゥ君。私と同じこと悩みを。
今いくつ?
「14歳です」
「なら今すぐ結婚するわけじゃないのよね。お相手は、いくつ?」
「12歳です」
目眩がした。まだ、子供じゃないの。
そんな子同士が、結婚なんて。
どの神様が、このいたいけな美少年の将来を摘んでいると言うのだ。
話を聞いてみれば、お相手の女の子も、その事は意識しているみたいで、照れ臭さからか、顔を合わせると喧嘩してしまうのだとか。
青春してるなぁ。
そして。
、、、神様は不公平だ。
第3話
私は裕之お父さんと一緒に、バージンロードを歩く。
チャペルの途中で待つ、白いタキシードの男性。
私はシルクのベールを下ろしたまま、そっと男性の手を取った。
気がついたら、私は結婚式を迎えていた。
あれから、2年。
時を振り返ってみると、フゥ君と会えたことがきっかけだったんだとおもう。
そして、がうちょと出会ったことが。
私とフゥ君は、あれから半年、毎日ずっと恋愛や結婚について、語り続けた。
振り返れば、そんなふうに自分の恋愛や結婚観について、語った事はなかった。
不満や焦りや、体裁。周囲の同調圧力、プレッシャー。怒りもあったし、そもそも私には愛の概念が育ってなかった。
ある意味、フゥ君と私は一緒だった。
子供、だったんだなぁ。
14歳の子供と、そんなことを語り合う成人女性も珍しいと思うけど、ある意味、そんな風に受け止めてくれる純粋な存在、私にはいなかったんだ。
結論から言おう。
フゥ君は、私より先に結婚した。
異世界で。
そして思ったんだ。
何とらわれていたんだって。
こだわってたんだなぁ、て。
14歳の戦友に、先を越されて思ったのは、私が自分自身に正直になれてなかったんだって事。
結婚なんて、選択肢のひとつでしかないんだ。
逆の意味で、私は焦っていたし、こだわっていたし、逃げていた。そして、考えるのを止めていた。
私に必要だったもの。
それは、愛というものに対して、語り合える戦友と、十分な時間。
この文章を読んでる君が、どう思うのかは、わからない。ちょろいと思うならいえばいい。
ただ、事実は述べておく。
私は結婚を選択して、行動した。
お相手は、職場の同僚。職場結婚だった。
第4話
「おめでとうございます」
フゥ君も、チャペルに来てくれていた。
彼は、まだ10代とは思えないほど、大人になっていた。くやしいけど、私の方が妹のようだ。
見ると、彼は奥さんを同伴していた。
セーラー姿の不思議な魅力の少女。
小柄で髪が長くて、つぷらな瞳で、賢そうで、、、あれ?もしかして、他人を見ている気がしない、、、?
そうか、彼が来ていると言う事は。
「もちろん、呼んでますよ。今は姿を消していますけど、この日のはるかさんのお祝いのために」
「がうちょ」が祝う。
私たちにだけ聞こえるように。
(おねがいハルカさんっ! 完)