西暦2023年03月24日 トーヤ=Y=オノ スウェーデンにて
「トーヤおひさしぶり。日本では派手にやったようね」
ひさしぶりに会うなり、マリア先生が僕に声をかけた。
あのコンサートの一幕はインターネットで全世界に盛大に公開されていたようだ。
僕は会場のことしか考えていなかったが、通信機能は別電源だったらしく、その日のニュースで取り上げられ、しっかり拡散されたらしい。
「知ってたんですか?」
「ええ、しっかり取り上げられていたわよ。アイドルの前座」
頭が痛い。
こんな形の世界デビューは考えもしなかった。
「まあ、一曲でのどを潰すようじゃ、まだまだだけどね」
「反省はしていますよ。もちろん」
謎の歌手として、声だけ有名になってしまった僕。いや、それはそれでミーハーだと思う。
「で、宿題は済ませてきたの?」
「マリア先生。時間が欲しいんです。あと少しで書き上げきれそうなんです」
ジト目の先生。
エリザベスとの復縁で、いろいろ僕も忙しかったのだから仕方ない。
僕は自慢げに書きかけの五線譜を見せる。
「君がうたうアンサーソング、です」
僕がエリザベスに失恋し、なんとかしなきゃと足掻いていたその時に。
彼女が歌った「あるがままでいいんだ」のメッセージ。
力なんて入れなくていい。僕たちは自然な愛を育んでいこう。
だから、タイトルはそれしか考えられない。
僕は自慢げに言って、マリア先生から小突かれた。
(君がうたうアンサーソング 了)